「カニ料理のついでに登ったような青江山だった」と、本当なら書けるはずが、とんでもなかった。ないと思っていた雪が登り始めから積もっていて、標高を稼ぐほどに足が潜った。すっかり雪山の様相で、先行者はおらず、ラッセルがこたえた。夕べ、網浜町の旅館「粋月」でたらふく食べたカニのエキスを一気に消費していくのが分かり、体の栄養にならなかったのが悔しい。
中腹を越した林までくると、雪はますます深くなり、奥山へ入ったような静けさと、低山を感じさせない冷気が身を包んだ。案外、雑木も豊だった。霧が濃かったらきっと迷いやすい魔の山に変わるだろうと思った。
山頂直下から頂へ続く雪の白と空の青の斜面では、かなり高い山を目指してきたような錯覚を覚えた。夫婦の姿が見えて、やはり低山だと納得した。夫婦はベテランらしく「そっちからは大変だったでしょう」とこちらの疲れを見破って言った。
さすが、関西百名山の一峰。広い山頂からの景色は優れ、なお眺望板があって、山座同定がしやすかった。登山口が遥か遠く下に見えた。
「歩いたのは確かに人間の足だが、カニエキスが歩かせてくれた」と信じた。それほどに意外にしんどい雪山だった。カニだけ食べて満足して帰る観光客よりも、5人の青江山登山は絶対に充実しているはずだとうぬぼれることも忘れなかった。(尾野)