坊ガツル賛歌を聞くたびに、ミヤマキリシマに思いを馳せていた。今年やっと思いがかない、憧れの花に対面できた。公園などでよく目にするヒラドツツジを、ずっと小さく凝縮したような感じで、花色は桃の花のような濃いピンクだ。でも決して派手ではなく、透明感があって、可憐で、瑞々しい乙女のような花である。この乙女は九州の火山でしか生きてゆけないそうで、外見に似合わない逞しい花でもある。
5月に四国に上陸する台風はこれが初めてという、台風4号が徳島に最接近した朝、山行を翌日に変更するということで、九州に向けて出発した。瀬戸大橋、関門大橋を渡り、9時間かけて待望の黒川温泉「新明館」に到着した。噂に違わず素晴らしい温泉宿だった。山の疲れを癒すつもりが、旅の疲れを癒し、翌日の山行に向けて英気を養った。
翌朝は台風一過の日本晴れ。緑滴る黒岳原生林を抜け、大戸越を経て、満開のミヤマキリシマに彩られた平治岳に登った。幾度となく写真で眺めてきた風景であったが、実物はどんな素晴らしい写真にも勝っている。
壮大な苦渋連邦のパノラマと咲き誇るミヤマキリシマの美しさ。いつもながら自然の造形の妙に胸打たれ、山から与えられる感動で心が満たされた。(小林)