今から5年前、ユネスコの世界自然遺産に登録された白神山地。にわかに脚光を浴びて有名山に仲間入りしたが、それ以降、僕は登りたくて登りたくて仕方がなかった。真面目に仕事優先で我慢してきた?が、今回ようやく念願をかなえた。
評判通りの大ブナ林はあきれるほど広大で、例えば剣山の天辺に立って北側に見渡せる山並みが全部ブナに覆われているといった具合なのだ。
丸笹山や塔ノ丸、矢筈山、黒笠山、高越山、東宮山、八面山、寒峰・・・これらの山々及び山頂を結んだ稜線が隙間なくブナで埋め尽くされている山容を想像していただきたい。ただし、目を見張る大樹はない。雪が多いため250年程度の寿命をきちんと守っているからだろう。
白神山地の最高峰は向白神岳という1243mの山。まさに「山高きが故に尊からず、深きをもってよしとす」と納得させられた。
しかし、秘境かというとそうではない。登山道は整備され、白神岳の往復だけならまず迷わない。山頂にはトイレも避難小屋も完備され、少し下りれば水場もある。1982年に訪れた登山家・故長谷川恒夫の登頂記念碑もあった。
僕が行ったのは、原則的に入れる緩衝地域だったため整備されていたのだが、そこより奥は、徳島の山に匹敵するかそれ以上のササのヤブ山と見えた。ブナの規模を除けば徳島の山に似ていたと思う。
登山口に「熊に注意」とあり、カメラを構えて喜んで進んだが、結局会えずじまいだった。岩木山も八甲田山もブナの宝庫だったのには驚いた。白神まで行かなくてもブナの魅力に十分浸れると思った。青森の奥山にブナ林が残ったのは、徳島のように山の中に人の暮らしがなかったせいだろう。 尾野