丸石谷沢登り2

1998.8.1


 歩き尽くされた県内きっての沢の一つに丸石谷川がある。谷幅が広く標高差もたいしてない(かずら橋〜国体橋間、約200m)。だから滝はあっても低く、ずぶ濡れの覚悟さえあれば、思う存分水遊びに浸りながら歩けるのだ。登山道も平行していて、進退極まっても楽に逃げられる条件が人気の秘訣でもある。

 歩き終わった後で直感したのは、ハイカーより釣り師の方こそ多く出入りしているという点だった。魚影を確かめる暇はなかったが、濃いすみれ色の滝壺には、素人の僕がテグスを垂れても何かがひょっこり上がりそうな期待を抱けた。

 挑発する滝すべてに、丹念に、そして果敢に挑んだ加賀城さんは、まるで自然に溶け込み、水につけた足元でもあめごがスイスイ泳いでいる姿が想像できた。前後の人が開いたり、だれ一人はぐれることもなく全員国体橋まで辿り着いた。

 沢という場をわきまえてか、さすがあすなろらしい気配りの届いた?登行だった。もちろん、あすなろらしく国体橋で終わったわけでなく、サンダルしか持ってなかった永井さんを除いて、登山道経由で丸石山頂まで行った。貪欲だった。
 残りの標高差と急峻な地形。そして午後に入っていたから、国体橋から沢を外れたのだが、帰りの夕立を考えれば判断は間違ってなかった。それだけに快晴に恵まれた丸石の頂きは貴かった。同じ天辺に立っても、南側のスーパー林道や剣山から縦走して来るのとは気分が違った。達成感は苦労のあとに着いて来る。山の醍醐味は、単に山頂に立つことだけではないのだ。

 このところ久方振りに頻繁に山行を重ねているので「山勘」が戻りつつあると実感している。増えすぎた体重はすぐには減りそうにないがこれはきっと時間が解決してくれる。僕にとって一番大切なのは、山登りで心身のバランスを保つことなのだ。それに所詮、県面積の8割近くが山だと知れば、街も山も楽しまない手はないと思う。

 下山途中、左手の沢を懐かしがるよりも次の目的の山をどこにするかに思いが巡った。下りぐらい、上へ向かう苦労を忘れたらどうかと思うが、心身が「まだまだアンバランスだ」と言っているのだとあきらめて雨のブナ林を急いだ。 尾野

剣山の地図
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