笹の中へ飛び込んで5分もたたぬ間に、うっとうしい灰色の雲はどこかへ消えた。その後は、丸であぶり出しを思わせる風景の出現だった。
「このヤロー、一体どこに隠れていやがった!」肉淵谷の源頭を挟んでまず一ノ森、槍戸山、ずっと奥に折宇谷山が浮かび上がってきた。
出てくるわ、出てくるわ四方全部が山山山、山上更に又山。美事な笹のスロープに胸が迫った。
そしてこんな時、一瞬でも目を放すのが勿体なく、ケチな気分にさえなるものだ。これぞブナと呼べる大木は多かったが、まさかふた抱えに及ぶヒメシャラを拝めるとは予想だにしてなかった。
事前に弁えて注意していたにも拘らず、肉淵峠手前で迷ったが、探す間に断崖に咲く石楠花に出合えたおかげで報われ、楽しい道草にとって代わった。
2日目は申太郎を往復して、夢にまで見た川成峠の下りである。木馬道だった昔はさぞ賑わったろう。
立派な沢が2つあり、そのどちらもで単独行故の気ままな休憩を満喫することができた。
リスとキジの思わぬ歓迎も受けた。一ノ森から派生したこの尾根は、県内クラッシックルートの代表格である。(尾野)