海外研修レポート

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第1節 米国comdexとwirelesslan関連企業調査 2003.11.17-19

1 はじめに

 インターネットが急速に普及し、情報ネットワーク杜会が形成されつつある現在、コンピュータやインターネットを利用することによって、国民の生活が豊かになり、社会全体が活性化されることが期待されている。

 そこで、我が国においても、it基本法の制定やe-japan戦略の実現等を通して、itの恩恵を全ての国民が享受でき、かつ国際的に競争力のある社会の形成を目指している。

 しかしながら、独創的なネットワーク技術の開発やネットワークの日常生活への応用においては、欧米との間で格差が見受けられるところである。

 また、いつでも、どこでも、だれでもがインターネットなどの情報ネットワークにアクセスできる、「ユビキタス・ネットワーク」の実現において、米国ではホットスポットに代表される、無線lanがたいへん普及しており、ノートパソコンやpda(携帯情報端末)を利用するユーザーが多い空港、ホテルのほか、商業施設や各種店舗等でも利用可能となっている。

 さらに、無線lanの普及に伴い、セキュリティにも配慮した、新しいサービスも生まれつつある。

 そこで今回、研修の機会を利用し、平成15年11月16日から5日間で、米国で開催されたit関連の展示会であるcomdexに参加するとともにワイヤレス・lan関連企業を訪問し、新しいit関連の新技術や情報関連サービスの調査を行ったので、訪問の順を追ってその概要を報告する。



2 comdex las vegas 2003

(1)概要

 comdexは世界最大のit関連の展示会だったが、規模は年々縮小しているそうである。これは、最盛期のcomdexが一般人向けのお祭りのような雰囲気になってしまい、ビジネスチャンスを生み出すという展示会本来の機能が失われ、投資に見合う効果が得られなくなってしまったからだと言われている。

 そこで、今年のcomdexは、ビジネスソリューションをテーマに、企業向けのitの総合的なイベントとして開催された。展示会場とは別に、講演やカンファレンス、パネルディスカッション、cio(情報統括責任者)向けセミナーや技術教育プログラムなど多彩な内容が用意され、「wireless and mobility」、「security」、「open source」、「web services」、「windows .net」、「digital enterprise」、「on-demand」の7つをメインテーマとして開催された。


(2)power panel(パネルディスカッション)

 1日目は、学者やitコンサルタント、it企業の技術者等による「security:how much is enough?」と「desital enterprise:the productivity paradox」いうパネルディスカッションに参加した。

●security:how much is enough?(セキュリティはどれくらいで十分か?)

 ここでは、it担当者だけではセキュリティの確保が困難であるということが話し合われ、その理由として、人的要因がセキュリティレベルを下げていることが指摘された。

 ウィルスのダウンロードを幹部にやめさせることの困難さや、単純で普遍的な解決策がないことが挙げられ、セキュリティ費用が今後ますますかさむことも予言されたが、セキュリティマネジメントの研究はネットワークシステムに10年遅れており、今後急速な技術革新が見込まれることから、楽観的な見方も示された。

●disital enterprise : the productivity paradox(デジタル企業の生産性に関する逆説)

 ここでは、企業の生産性について話し合われた。コンピュータは企業の生産性を向上させると信じられていたが、現実には迷惑メールへの対応や、上司からの監視に対する注意に時間を取られてしまっている。このため、itによって生産性を劇的に向上させることはできないという主張が一方ではある。

 しかし、情報化の範囲が臨界点を越えていない、または情報化に伴う業務改革が不充分なので生産性が向上していないのではないかという指摘もあった。





(3)japan conference

 2日目には、日本人向けのカンファレンスが開催された。まず、comdex主催者であるメディアライブ・インターナショナル社上級副社長のマイケル・ミリキン氏によるcomdexの解説のあと、マイクロソフト社会長ビル・ゲイツ氏とサンマイクロシステムズ社会長スコット・マクニーリ氏の講演内容が紹介された。

1. ビル・ゲイツ氏
 今後は、ソフトウエア同士が通信するシームレスコンピューティングが実現されるという見通しを示した。

 シームレスコンピューティングとは、ソフトウエア同士がお互いにコミュニケーションすることで、ユーザーが難しいことを考えなくても、簡単に使うことができるという意味であり、非常に簡単でシンプルなことが重要であると強調していた。

 また、セキュリティ関連では、スパム(迷惑)メールの脅威に対抗するために、ネットワーク管理者に対して、スパムメールからサーバを守るための強力なツールを提供するということも発表した。

 さらに、“stuff i've seen”と呼ばれる開発中の検索ツールを紹介した。これまでの検索ツールでは、例えばメールの検索をするのであればメールソフトから、webサイトの検索をするならwebブラウザからと、アプリケーションごとに行なわなければならなかったが、“stuff i've seen”では、これらを統一して、情報にアクセスすることを可能にしたものとなる予定だそうだ。

2.スコット・マクニーリ氏
 こちらの基調講演は、it関連の最新情報を紹介するというのではなく、amdとサンマイクロシステムズの提携発表が中心であった。

 この提携によりサンはローエンドサーバー領域を強化でき、amdはエンタープライズ領域に本格的に参入できるようになるということを主張していた。


(4)展示会場

 展示会場では、マイクロソフトのブースがやはり最大面積を占めていた。それ以外のブースはいずれも小型で、韓国、台湾、香港などの企業は、それぞれにグループを作って展示ブースを形成していた。

 東芝、富士通、hp、acer、viewsonic、gatewayなどいずれもが、外出先からのインターネット接続を可能にするtablet pcの新製品を発表していたのが印象的だった。

 また、販売系のブースはdellが出展しており、会場でオーダーを受けつけるサービスを実施していた。しかも、会場だけの特別価格が提示されており、長蛇の列ができていた。




(5)トップ10トレンド

 会場では、来年以降のit関連の動向として、次の10項目が発表されていた。

trend 1:ウィルスとスパムの被害が拡大する。
trend 2:経済のグローバル化は進展するが、海外へのアウトソーシングに対する反動が来る。
trend 3:ip電話が既存の電話会社を解体する。
trend 4:会社が存続するための合併が進む。
trend 5:wifi(無線lan)市場は巨大になる。
trend 6:企業の透明性の確保が重要となる。
trend 7:一部の有力な新興it企業が経済や株式市場に影響を与える。
trend 8:セキュリティは最も重要な課題であり続ける。
trend 9:出会い系ビジネスが本格的に開始される。
trend 10:電子商取引が一層拡大する。

 日本との大きな違いはtrend 9で、日本では出会い系サイトはネガティブに捉えられがちだが、npoや地域奉仕活動などビジネス以外での社会参加が盛んな米国では、いっしょに活動する人を募集するときなどに出会い系サイトが利用され始めており、会員数が急拡大しているという説明を受けた。

 このシステムを例えれば、本県ではリサイクルネットによってインターネットによる資源の有効利用が図られているが、人的資源のリサイクルネットが拡大しているという印象を受けた。





3 ワイヤレス・lan関連企業訪問

(1)boingo wireless社

面談者:副社長tamara steffen氏、技術担当sanjay pal氏

1.会社概要
 boingo社は、2001年2月に設立されたベンチャー企業で、無線lan技術を用いた、いわゆるホットスポットの接続サービスを提供している。

2.調査結果
 boingo社が提供するホットスポット・サービスは、ローミングシステムと呼ばれる。

 ローミングシステムとは、isp(インターネット・サービス・プロバイダ)がboingo社と契約さえしていれば、他の契約しているispのアクセスポイントから、自分のidを使用してインターネットに接続することができるサービスであり、世界中のどこへ行っても、現地のプロバイダに加入したり既に契約している国内のispのアクセスポイントに国際電話をかけたりする必要がなく、どこからでも市内通話料とサービス利用料金でインターネットを利用できるサービスである。

 boingo社が提供するホットスポット数は、既に5,000箇所を超えており、米国内最大手のホットスポット・サービス事業者となっている。

 また、boingo社は、ローミングシステムに加え、wi-fiシグナル・スニッフィングと言われるwi-fi信号の検知機能を備えたクライアントソフトも提供しており、boingo社のホットスポットだけではなく、ユーザーがいる場所をカバーしている全てのwi-fiネットワークを探し出すことが可能となっている。

 顧客企業には、このクライアントソフトを顧客企業ブランドの形で利用者に提供出来るようなサービスも提供している。なお、このソフトウェア(英語版)は、boingo社のwebサイトから無料で利用可能となっている。

 利用者が、様々なキャリアやisp企業を通じて、世界中どこにいてもホットスポットにアクセス出来るようになるシステムであり、これらの技術を元に、bingo社は急成長しているところである。





(2)starbucks社

面談者:thomas terres氏(利用者・uscの学生。店舗にて聞き取り)

1.会社概要
 北米最大の店舗数を誇るコーヒーチェーン。日本においても全国展開中。

2.調査結果
 2,000万人の客の90%がインターネットユーザーであることがわかり、店舗へのwi-fi導入を決定した。t-mobile社と提携し、wi-fi環境を提供している。

 しかし、利用者等の話によると、1日の利用者は7〜8人程度で、大学周辺でも20人程度である。概ね20人程度で投資額と同等の収入があるそうなので、収益につながっていない店舗も多数あると思われるが、宣伝効果は高いらしい。





(3)the westin bonaventure hotel

面談者:itマネージャー neal mccracken氏

1.会社概要
 ロサンゼルスで最も大きなホテル。スイート135室を含む1354客室。35階建てでガラス張りの円筒形の建物が5つある。

2.調査結果
 boingo wireless、wayneport、at&t、stsnibah、ipassの5つのプロバイダと契約し、ホットスポットを提供している。マクラッケン氏によると、ホテルはサービス合戦なので、提供できるサービスが多いほど喜ばれるということである。

 また、プロバイダ契約していないインターネット利用者は、ホテルからカードを購入してすぐに利用することもできるが、その場合は利用者が特定できないので、セキュリティ上の問題はあると語っていた。

 アクセスポイントは天井裏に設置しているので、客からは全く見えないようになっていた。





(4)equity office

面談者:支所長 brian nixon氏、上級マネージャー natalie park氏

1.会社概要
 日本における森ビルのようなビル管理会社。全米で710ビルを所有し管理を行っている。シアトルの8ビルと超高層ビルcalifornia plaza one & twoにはホットスポットが標準で用意されている。

2.調査結果
 入室店舗においては、ホットスポットが必須となりつつあるので、電波干渉を避けるために、予めビル管理会社がシステムを用意し始めている。

 ニクソン氏の業務は、テナントの要求に応えて、通信システムを提供すること。キャリアが様々なサービスを提供しているが、ある特定のキャリアを選ぶときは、立ち会って交渉を行っている。困っていることは、ワイヤレスの要求は高まっているが、セキュリティの問題があること。テナントごとに切り分けなければならないが、電波が侵害した場合のチェック方法や調停方法がない。侵害時に対応するための契約は可能だが、実際にはできていない。

 特にt-mobile社のホットスポットは電波が強いので、それ以外がつながりにくくなってしまう。その点、boingo wireless社の技術は使えるサービスを特定できるので利用価値が高いとのことであった。


4 おわりに
 ホットスポットは正確に自分がいる位置と、使えるサービスを到底することが重要である。そのため、次のようなサービスが提供されている。

○1加入者1ドル×最低5万人必要
○米国通信協会(fcc)のライセンスが必要。
○wi-fiは管理されていないので、これから問題が起きるだろう。
○セキュリティが弱いシステムは公表される。そういうハッカーグループがいる。
○セキュリティはboingo社提供のmyvpnで行っている。
○カ−ド発行型など、本人確認ができない場合はセキュリティ上の問題がある。
○ワイヤレスlanは制限のない世界なので、自由に使えるという意味から急速に発展しているが、制限を加えなければならないので難しい。
○ユビキタスを実現するための技術。加入しているプロバイダさえboingo社と契約していれば、どこからでも接続が可能となる。
○セキュリティ技術面では、wi-fiのソフトウェアとしては、普及すれば市場でテストされるので、品質は高い。

 国や地方自治体がいくらインフラを整備しても、アクセス料金は決して安くはなかった。日本では、必要ならばサービスに対して対価を支払うという習慣に欠けているように感じた。対価の正当性は、いかに便利にほしい情報にアクセスできるかである。

 各国はそれぞれ次のような戦略を立ててit革命を進めている。しかし、本当に重要なのは回線のスピードではない。wifiは技術自体はそれほど新しくはないし、スピードも11mbpsと速くはない。しかし、いつでも、どこでもアクセスできるという点が重要であろう。


●アメリカ合衆国it2(itスクウェア):社会経済の発展の原動力たる、世界最先端のit開発

●ドイツ:情報社会における、欧州一の地位を占めること

●韓国:世界で10位圏の情報化先進国の実現


(1)it2: information technology for the 21st century(アメリカ)=インターネット、高速コンピュータ処理等、基盤的it技術投資の抜本拡充

(2)21世紀の情報社会における革新と任務(ドイツ)=情報通信インフラの整備促進、最新の情報通信ツールの利用拡大

(3)cyber korea 21(韓国)=創造的知識基盤国家の建設、情報通信インフラ整備と技術開発

(4)digital 21(香港)=アジア地域におけるマルチメディアを基盤としたitの中心地

(5)information technology action plan(インド)=インターネット利用人口の拡大、公的研究機関のネットワーク化

(6)フィンランドの情報化社会への道(フィンランド)=情報ネットワークを基盤とした先進的情報化社会、情報技術及び通信技術において世界的競争力 等



第2節 itによる社会経済構造改革を競う諸国

 各国は、itによる社会経済の生まれ変わりを基本戦略として、国づくりの将来ビジョンを描いている。

 21世紀には、多くの国がitによる社会経済構造改革に成功し、情報社会型の成功モデルを実現していくこととなろうが、そのような変革後の国際社会におけるイニシアティブの確保を目指して、国と国とがit戦略を競い、学びあう時代が到来している。

(1)米国

 米国政府は1999年1月、2000年度予算要求に併せ、情報通信分野の研究開発計画「it2(information technology for the 21st century)」を発表した。

 この中でitは、「米国の経済成長のみならず、雇用創出、生産性、国際競争力強化にとって重大なインパクトがある」と位置付け、インターネットや高度コンピュータ処理等基盤的なit技術開発や、it革命の社会経済との関わり合いの研究等の実施を盛り込んでいる。

(2)英国

 英国政府は、1999年4月、国民生活とビジネス環境の向上に資することを目的とした政府の再構築に向けた長期プログラム「modernizing government」を発表し、最新のit技術を利用することによって、政府業務の刷新や行政サービスの向上を推進するとともに、政府自らが最新技術を積極的に利用していくことにより、技術革新を先導することとしている。

 また、英国政府は、2000年2月、デジタルコンテンツ振興計画「uk digital content an action plan for growth」を公表し、コンテンツの業界団体をメンバーとする「digital content forum」の創設による横断的な課題への対応、起業を財政面から支援する枠組みの構築、米国にデジタルコンテンツを輸出するための専門家の派遣と市場調査の実施等の行動計画を盛り込んでいる。

(3)ドイツ
 ドイツ政府は、1999年9月、情報社会における欧州一の地位を占めることを目標として、情報化促進アクションプログラム「21世紀の情報社会における革新と任務(innovation und arbeitsplatze in der informationsgesellschaft des 21.jahrhunderts)」を発表し、経済、社会のらゆる分野における最新の情報通信手段の利用拡大、情報通信インフラの整備促進等を目標に掲げている。

(4)韓国

 韓国政府は、1999年4月、「cyber korea 21」を発表し、創造的知識基盤国家の建設を目標に、情報通信インフラ整備と技術開発、知識情報の創出、蓄積、活用能力の先進化で、2002年には世界で10位圏の情報化先進国になるとしている。

(5)香港

 香港行政局は、1998年10月、「digital 21 - information technology strategy」を発表し、電子商取引やソフトウェア開発などit開発・応用の中心都市、アジア地域におけるマルチメディアを基礎とした情報・エンタテイメントの中心地となることを香港が目指す将来像として掲げている。

(6)マレーシア

 マレーシア政府は、2020年までに先進国入りを目標とする「ビジョン2020」計画の一翼を担うプロジェクトとして、1996年、「マルチメディア・スーパーコリドー(msc)」構想を発表し、クアラルンプール市と新国際空港間の高速光ファイバ網で結ばれた15km×50km四方の地域に、it分野の先端企業・研究機関の誘致、実用的アプリケーションの開発による需要創出、インテリジェント都市開発、の3つの手法により、情報通信産業の拠点づくりを推進している。

 このうち、it分野の先端企業等の誘致については、一定の条件を満たすit関連企業に「mscステータス」を付与し、法人税免除や外国人の自由雇用等を認めるとともに、サイバー法等による環境整備を通じて、エリア内への進出を促しており、1999年末現在、mscステータス取得企業は300社、うち日系企業は13社(jv4社を含む)にのぼっている。

(7)インド

 インド政府は、1998年7月、it革命時代においてit分野におけるインドのプレゼンスを世界的に高め、この分野のフロントランナーとなることを目標として、「information tecnology action plan」を発表し、インターネット利用人口を拡大して情報通信の利用が国内に広く浸透すれば、インドは情報通信分野で巨大な勢力になるとの認識の下、「it for all by 2008」の目標を掲げ、公的研究機関のネットワーク化など、積極的な取組みを展開している。

(8)フィンランド

 フィンランド政府は、1995年1月、情報ネットワークを基盤とした先進的情報化社会を構築し、情報技術及び通信技術において世界的競争力を獲得することを目標として、「フィンランドの情報化社会への道」を発表し、5つの行動指針に基づく取組みを推進している。
1.情報通信技術及びネットワークによる公的・私的セクターの刷新
2.情報通信産業を経済の重要領域と位置づけ
3.情報通信技術に関する専門家の育成
4.全国民に対し全てのサービスを享受する機会と技能を提供
5.情報通信基盤の高度化と競争の導入

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