山とおすすめの秘湯の温泉宿シリーズ その2

韓国岳と新湯温泉「新燃荘」


 霧島連山の最高峰は韓国岳である。ここは昭和9年に最も古く国立公園に指定され、山・高原・温泉と三拍子揃っている。休日は家族連れのハイカーや一般の観光客も多い。

 韓国岳山頂から見る高千穂峰の美しい高嶺は見飽きる事がなく、展望は月の砂漠に例えられている。韓国岳から獅子戸岳・大幡山・新燃岳へ登り、高千穂峰の方向と逆に下ると「新湯温泉」がある。今は「新湯」と呼ばれているが昔は「砒素燃の湯」と呼ばれていた。その謂れは明治12年に四国から来たらい病患者が、「小川の中から砒素が燃え出ているから、その川湯を堰き止めて入れ」というお告げによって発見されたことによる。

 一軒宿「霧島新燃荘」は海抜920mのひなびた山峡の赤松林に囲まれた中にある。民営の国民宿舎で一泊7000円から、また自炊部屋なら3000円で泊まれる。水虫などの皮膚病に効能があり昭和27年に九州大学医学部皮膚科教室の樋口教授により証明されている。それ以来湯治客が急増し、昨今の秘湯ブームで利用客は年間延べ5万人を越えているそうだ。

 湯は大量の硫化水素を含んだ乳白色で、玄関を降りた処の大きな露天風呂は混浴になっている。混浴と言っても濃い乳白色なので入ってしまえば気にはならない。

 すぐ隣りには男女別の内湯があり、その横には治療用の風呂もある。硫黄の薬効は日本一と言われており、平成元年3月に鹿児島市から来ていた母娘の湯治客が硫化水素のガス中毒によって死亡する事故も起っている。

 今は換気装置も改善されガス濃度も心配ないがそれでも内湯は風通しよく工夫されている。また「入湯は一回30分以内。決して一人で入らないよう、二人以上で連れ立ってはいること。」などの張り紙がいたる所にある。

 湯の出口の岩は硫黄の湯の花で黄色く染っており、タオルで擦るとたちまち黄色くなる程成分は濃い。また宿の奥には家族風呂があり、樹齢300年のツガの巨木をくり抜いた一人用の桶風呂がある。

 私は3月に一泊していつものように5回程入ったが毎年のように悩まされる水虫に今年はまだ遭遇してない。

 今回は料金が安いので料理は期待してなかったのだが山菜・マス料理も美味しかった。特筆すべきは一日煮込んで作ったという黒ブタの角煮だ。あと2000円追加して料理も楽しむ事をお勧めする。温泉・料理・料金すべてに満足できる数少ないお気に入りの宿である。

 秘湯ブームで不相応な値上げをし、設備・サービスの伴わない宿泊料金を設定している宿は見習ってほしいものである。  (西條)


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