三嶺

1998.12.19


メンバー:L片岡 永井 吉田 西條 佐藤 宗本 大西

コースタイム
三嶺林道登山口8:55
10:45
三嶺山頂11:00
山頂出発11:55
杉林に入る12:50
菅生青少年旅行村14:30

 「アプローチに時間をかけ未知の山に赴くよりも、たまには三嶺あたりをのんびり歩くのも良いだろう。最近買ったばかりの靴慣らしにもなる。」近頃、飲み過ぎやらストレスでキリキリと痛む腹のことを思えば、片岡さんの提案に躊躇するところはなかった。

 さて、冬枯れた奥山の侘びしさを愛する一行は、いつもお馴染みの林道登山口を出発した。ゆっくり歩きながら周囲を見渡せば広葉樹と針葉樹が程良く入り混じった森には、冬独特の静けさと清浄な空気が満ちあふれている。すぐに腹部の違和感がやわらいできた。山には疲れた心身を癒す不思議な力があるようだ。

 一汗かいたので「水の休み場」で休憩。佐藤さんに教えてもらい、生まれて初めて天然ワサビを見ることができた。今まで勝手に思い描いていたものよりも、はるかに瑞々しく青々とした色を持つその葉の形状を、しっかり目に焼き付ける。

 ここは自然公園内なので根っこを引き抜いて持ち帰ることはできないが、この経験は別の場所できっと生かされることになるはずだ。

 その後も、無事下山するまで保たれる整然とした列を崩さず前進する。そして、アイゼン、スパッツの必要性をまったく感じないまま、紅葉の旬をとうに過ぎた名峰の最高地点に立つ。

 高知の街が確認できる程視界はさえ、そのまた向こうには、もしかすると足摺岬でないかと思われる半島状の陸地がうっすら浮かんでいる。東方に目を転じれば、平家平の雄姿も望まれる。「一段低い左側のピークに騙されたんだな。」先日の登行を思いだし、ひとり呟く。

 時間が許せば西熊山まで縦走したいところだったが、12月中旬とはとても思えないポカポカ陽気に恵まれた三嶺でビールを一口飲れば、さほど残念に思えない。「いつまでもここに居たい。これ程人影疎らな風情ある三嶺を味わえることもそうざらにないものなあ。」と伸びやかな気分に浸ることになった。

 いつまでも山の一部で在り続けるわけにもいかない。帰路を菅生方面にとる。これには、リーダーと同じく、積雪期のルートとして確認しておきたいという考えもあったわけだが、初めてのルートを辿るときの、あの新鮮な感動にも、もちろん期待は膨らむ。

 名残惜しさに振り返れば、うらやましいことに、さっきすれ違った単独行者が、三嶺を独り占めにしているではないか。本来の静寂を取り戻した憧れのピークを1人気儘に堪能していたに違いない。一方、見事な原生林が我々一同の心を引きつける。

 極めつけは、苔むした大岩を通り過ぎる際、その裂け目に根を下ろし幾歳月を経たであろう樹木の生命力を目の当たりにしたときで、皆一様に感嘆の声をあげたのだった。でも悲しいかな、お楽しみは最初の一時間くらいなもので、その後のほとんどの行程は人工林の中にあった。やはり、あまり使われてないコースにはそれなりの理由があるものなのだ。
 途中、全員でココアを飲めば、その温かさと甘味が体中に精気を与えてくれた。この感覚は日常生活では、なかなか味わえない貴重なものだ。杉林の単調な景色の中を歩いたせいか、ちょっとチクチクし始めた胃の調子も回復した。

 「なにが起こるか判らない山の中において、何気なく分けていただく一個のチョコレート、一口の蜜柑、それに一杯のココア、そういったもののもたらす効用には計り知れないものがある。もしかすると、それが生死の境を分けることだって考えられなくもない。その価値を金銭に換算することは意味がないし、第一に不可能だ。いや、物に限らずとも、一寸したアドバイスや、かけ声、視線による無言の合図等にも同様のことが言えるのかもしれない。とすると、山仲間は山行を通じて、かけがえのない宝の貸し借りをあたりまえのように繰り返しているのか。まあ、難しいことは考えないで、肩の力を抜いてココアの味を楽しむべきなのだろう。」とそんなことを思いつつ、残る道のりを順調にこなす。

 午後3時までには、まだ30分以上のゆとりを残し、眼下に青少年旅行村が現れる。これで、幸いにも先程の一杯は非常用エネルギーに活用せずに済んだわけだ。かわりに自動車安全運転用エネルギーとして立派に役立つことになる。大西

三嶺の地図
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