不入山〜折宇山

1998.11.1


メンバー:尾野(L)、加賀城、森、西條、久米、大西、太田、滝、小林、久米さんの友人夫妻

 次郎笈、剣山、一ノ森という、そうそうたる徳島山岳が整列する様を間近に観賞できるコースがあるとしたら、岳人なら誰もが行きたいと思うだろう。そしてそこには、最少の人々しか入り込まないためか、大ブナが残り、笹が繁茂し、熊の存在すら感じられるような自然がある。不入山から折宇山への縦走路はそういう道であった。

 奥槍戸手前の横井林業の供養塔横に車を止め、斜面に付けられた刈分け道を登る。稜線に出ると、次郎笈、剣山、一ノ森、槍戸山の勇姿が、眼前に迫ってくる。新九郎分岐よりの登山道に合流し、展望台へと導かれた。今秋は紅葉がさっぱりだが、例年どおりであれば、錦繍をまとった姿はさぞ美しかろう。

 不入山へはトラバース道を歩き、山頂近くで稜線に出る。笹の中に一本、つつじの木が立つ不入山に着く。地元の人たちから入らずの窪と呼ばれているだけあって、びっしりと熊笹が茂り、その中を泳ぐように進む。

 不入山から久井山までは3年前に歩いているが、その時は霧で展望がさっぱりだったが、今回は遠くの山々まではっきりと望める。先行する尾野さんと大西さんが立ち止まる。”グォー”という獣の声を間近に聞いたと言う。「すわ、熊か!」と皆に緊張がはしる。が、結局姿を確かめることはできなかった。しかし、久井谷山の手前に非常に大きなヌタ場があり、立木には深く鋭い爪痕が幾つも残されていた。5年前に勘場谷で発見された雄熊ツルギの生息範囲内なので、彼のものかもしれない。

 久井谷山で小休止の後、折宇谷山へ進路をとる。あすなろのメンバーにとって初めてのコースだ。どんな所なのか期待に胸が躍る。尾根も明瞭で、笹も薄く、歩き易い。折宇谷山が迫るように見えるのも好ましい。

 頂上手前500m付近で広々とした花畑が出現した。花の亡骸しか残っていないが、初夏にはテンニンソウの大群落があっただろうと思われる。西三子山と同じような石灰岩質の山なので、もしかしたらフクジュソウも咲くかもしれない。それにショウジョウバカマ、ニリンソウ、エンレイソウと次々に頭の中で花々が開きはじめた。ああ、ここはまるで雲上の秘密の花園。花の咲く頃は、繁茂する笹や蔓に守られ、誰にも見られることもなく、花々は美しく咲き競う。想像の世界の中でうっとりしていると、折宇谷山に到着。今日初めてのゆったりとした休息をとる。

 昼食後、中内山に向かう。樹間越しに、今日歩いてきた稜線がうねうねと続いているのが見える。あんなに遠くから歩いてきたのだと思うと、自分の足に感謝する。

 中内山からは、北尾根を林道へと下る。約7時間の縦走を終え、四季美谷温泉で汗を流し、帰路に着く。いつもの縦走の後は、達成感に満たされて幸せな気持ちになるのだが、今回はそれに加えて、展望、動物、植物と収穫の多い山行で、大いに得をしたような気がした。小林

平家平の地図
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