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六郎山(1287.3m)

1994.1.28



【コースタイム】
8:45 瀬津発
9:20 崩壊地
25 造林小屋
10:00 沢筋取りつく
10:30 三肢沢分岐
11:30 六郎山着
35  〃 発
12:40 杉林(昼食)
13:20 発
38 三肢沢分岐
14:00 造林小屋
14:50 瀬津

【感 想】
 坂州から槍戸川に沿って車を走らせると、左手にのしかかるようにして全容を誇示している凸点が六郎山である。

 尾根と峡谷のひだが交互にくっきりと刻まれ、荒寥急峻としたその形相には、挑戦者の心に一瞬武者ぶるいの波を起こさせるのに充分なる威圧感と、神秘雄大なる山塊に遊心慢歩の山恋の気をそそる豊かな情緒とが調和している。

 久恋のこの山の登頂を、以前畠山氏のつけておいてくれたテープを頼りに無事完行することができた。

 それは、幾度も崩壊地を突破し、河床に足を滑らせながら、雪の斜面で転がりかけては復帰し、笹の中をまさぐりながら前進するもので、砂、岩、水、雪、草からなる自然の大舞台の上、思う存分我々人間の智能を試すことができる思惑とぴったりのものであった。

 また、深林の発する空気を胸いっぱいに吸い込みながら、白妙の雪の肌に一点一点歩跡を印すという孤独な作業の末、ようやく天辺へ到った時の感動の極まりは、こたつにうずくまりミカンを食べていて生まれてくる次元のものではなかったと断言できる。

 更に、もしも晴れていたならば、冬めいた紫藍の虚空とたそがれた落日の夕景にも会うことができた六郎登山のエッセンスを一層味到したであろうことに違いないが、ここではそれだけは口にすまい。

 自然の理が人の道に優先するのが山の掟だったし、魔性と神性の両方を合わせもつ山の領域へと、こっそり忍んでいったこちらのにこそ元々負い目があったはずなのだから。

 ほどよい緊張が混じる素朴な山歩きがかない、普段にはない魂のゆさぶりを感じとれたなら、それだけであっぱれと僕は思いたい。

 寒い山中に、季節はずれの花を着けたヤマブキとナデシコの二輪は、四季美谷の湯につかった途端大きく息を吹き返し、ゆったり羽根を伸ばしている様子だった。(尾野)